ノートブック

あるテイスティングの物語

1989年ヴィンテージがつないだ出会い

明るい光と芳ばしい香りに包まれ、晩春の空気の中で微笑むカロン・セギュール。シックな装い、彩あふれるシルクのストール... 修築を終えたばかりのシャルトルーズ入り口へと吸い込まれるご来賓の皆様。ドメーヌ本来の荘厳さを蘇らせようと、実に大がかりな改修事業に取り組み、ようやく無事にお披露目の日を迎えることができました。芸術作品を展示するギャラリーさながら、真っ白な長テーブルに並べられた過去30年のヴィンテージ・ワインたちが、いまかいまかとサービスの瞬間を待ちわびています。

まさにふたりにとっては30年ぶりの再会。かつての彼女は柔和な視線の若きジャーナリスト。かつての彼は笑顔が印象的な見習いエノロジスト。彼女は世界中を旅するニューヨーカー。彼は生粋のメドックっ子。グラン・ヴァンに魅了されたふたりは、とあるテイスティングをきっかけにカロンの蔵で出会いました。タンニンの黒いシミがついたメモ帳にいつものようにコメントを書き記しながら、グラスが差し出される度にいつも以上の笑顔を見せながら、ワインの真髄とは、素晴らしい出会いとは、パワーと優しさのマリアージュとは... ふたりは深く意見を交わしました。互いに感化し合い、別れを迎えました。

30年後、大修築をへてまぶしく輝くカロンを再訪したふたり。出会った瞬間お互いの存在に気がつき、視線を留めます。しばらくの間。永い間。かつてと同じく、彼が彼女のほうへと歩み寄りました。「お元気ですか」というありきたりな挨拶、あたりさわりのない最初の言葉、それらを跳ね飛ばすかのような笑顔。初めて出会った時のように意気投合。過ぎ去った空白の時間は一瞬で埋められたようでした。太陽が地平線を黄金色に染め、人々が庭園へと場を変えはじめる頃、ふたりは申し合わせたかようにしばらくテイスティング・テーブルに残ることにしました。

1989年

- わたしたちの最後の出会いから始めてみましょうか?

ボトルの列を確認して彼はこう提案しました。

- 1989年てこと?改めてボンジュールを交わすのにぴったりね。

- 外観は驚くほど鮮やかだったことを憶えています。見て。光沢には茶色い変化が見られるけれど、色調は変わらず濃いまま。バラの花、オリエンタルなスパイス、ベルガモット・ティーの上品なアロマ。ほのかに甘美で美味な味わいは健在。年はとったけど、まだ元気な、まるで自分みたいだね...


- 面白いコメントね!とても上品で、なんというか古めかしい感じがするスタイル。わたしは大好きだわ。もうこういうつくりはしないでしょう?こういうワインは現代のプリムールではどう評価されるのか興味あるわ。

- いわゆる「オールド・スクール、グッド・スクール」、古臭いけど魅力的なワインといえるかも...

- タンニン抽出というより、ぶどうの熟度が長年の熟成を可能にした例ね。


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