ノートブック

試飲物語

1991年のヴィンテージを巡って

明るい光と芳ばしい香りに包まれ、晩春の空気の中で微笑むカロン・セギュール。シックな装い、彩あふれるシルクのストール... 修築を終えたばかりのシャルトルーズ入り口へと吸い込まれる招待客。ドメーヌ本来の荘厳さを蘇らせようと、大がかりな改修事業が行われ、本日無事にお披露目の日を迎えました。アート作品を展示するギャラリーさながら、真っ白なロングテーブルに並べられた過去30年のヴィンテージ・ワインたちが、いまかいまかとサービスの瞬間を待ちわびています。

まさにふたりにとっては30年ぶりの再会。かつての彼女は柔和な視線の若きジャーナリスト。彼は笑顔が印象的な見習いエノロジスト。彼女は世界中を旅するニューヨーカー。彼は生粋のメドックっ子。グラン・ヴァンに魅了されたふたりは、とあるテイスティングをきっかけにカロンの蔵で出会いました。タンニンが黒くシミを残したメモ帳にいつものようにコメントを書き記しながら、グラスが差し出される度にいつも以上の笑顔を見せながら、ワインの真髄とは、素晴らしい出会いとは、パワーと優しさのマリアージュとは... ふたりは深く意見を交わしました。互いに感化し合い、そして別れの時を迎えました。

30年後、まぶしく輝く修築されたカロンを再訪したふたり。互いの存在に気がつき、視線を留めます。しばらくの間。永い間。かつてと同じように、彼が彼女のほうへと歩み寄りました。「お元気ですか」というありきたりな挨拶、あたりさわりのない最初の言葉、それらを跳ね飛ばすかのような笑顔。初めて出会った時のようにふたりは意気投合。過ぎ去った空白の時間は一瞬で埋められたようでした。

太陽が地平線を黄金色に染め、人々が庭園へと場を変えはじめる頃、ふたりは申し合わせたかのようにしばらくテイスティング・テーブルに残ることにしました。

1991

彼女はワイングラスを受け取ると、あごに指をあて、しばしいぶかしげな表情を見せました。
しかしクリスタルグラスの飲み口に鼻を近づけたその瞬間、彼女の表情はパッと明るくなりました。

- 熟成が進んだワインの色味の薄さにとらわれていてはダメね。シャンベルタンの古酒さながらに、上品で甘美でスパイシー。
驚きのアロマの世界が広がるわ。カロンのシグネチャーのひとつ、スパイス、ベルガモットのアロマは健在ね。

- 重度の凍害に見舞われた年にしては驚きの仕上がり。
今後まだ数年、我々を楽しませてくれるワインだね。

- 当時、凍害にあったのは主に古株で、樹勢が衰え始めていたカベルネ・ソーヴィニヨンに対してかなり厳しい基準で選別が行われたと聞いた。
その努力が報われた形だね。


...